人目はばからず甲高い声を上げながら走り去ってゆくバカップルを見て,私も,「あれ?この男,ペペたちの父ちゃんじゃ…?」と思った。

そしたら,トニオたちに追いついた親戚の少年が,「君のお父さんが走ってったよ…?」と指摘するではないか。

父親を信じきっているトニオたち兄弟は,「絶対に違うよ。パパは今カナダにいるんだから」と即・否定。

複雑な表情のクレオだが,余計なことは一言も発さず。

場面は変わり,バスに揺られるクレオ。一人で休日お出掛けらしいが,浮かない表情である。

降り立ったところは,泥道だらけの小さな村らしきところで,選挙カーのような音声が聞こえ,広場では祭なのかイベントなのか,トランポリンに向かって人間が大砲から発射されていた。

クレオが歩いて行った先は,下ッ手クソなバンド演奏の練習ちうのラモンの家。

「フェルミンの居場所を知らない?」と訪ねて来たクレオにあまりいい顔をしなかったラモンだが,彼女であるアデラが「ラモンなら教えてくれるわ」と言った…と聞いてはむげには出来ず。

バンド仲間に車を出してもらい,フェルミンが武術の練習に励むグラウンドへ連れてゆくのだった。

笑ったのが,暑かったからかタンクトップにトランクスというマヌケな格好でギターをかき鳴らしていたラモンが,うっかりそのまま出かけそうになって,「おっと…パンツ履くわ」と慌てて家の中に引っ込むところ(笑)。

グラウンドでは100人近くの生徒が,掛け声と共に棒を刀のように一斉に振り回しており,女や子供たちが見物していた。

ずいぶんたくさんの門下生というか練習生がいるんだな…何の武術なんだろうか…と思っていたら,どこからともなく「ゾベック先生」という師匠が出現し,生徒たちの前に立つ。

オールバックにポニーテールの長髪,昔は鍛えていたのだろうがだいぶ脂肪に底上げされている感じの,背は高いがむちむち気味の男性である。

特撮の怪しいヒーローかプロレスラーのようなショルダータイツ姿であまりカッコ良くはなく,それにしても,どこかで見た顔だな…と気になり始めた。

先に書いてしまうが,この「ゾベック先生」を演じていたのはAAAの(今はどうだか知らないが)ラティン・ラヴァー。

いっときストリッパーキャラでブイブイ言わせていたプロレスラーだったのを覚えているが,もうかなり歳だろうに。

まさかこのような映画に出演しているとは思わなかった。

生徒たちの前に立ったゾベック先生は,「これから一芸を披露する」と厳かに宣言し,1人の生徒を指差して招き寄せ,目隠しを頼むのだった。

どんな凄い芸を見せてくれるのか…と期待を込めたまなざしで見守る生徒たち。

しかし,頭上でピラミッド形に手を合わせ,脚を4の字にして片足立ちするだけのゾベック先生。

(芸って…これがかよ…?)
(勿体ぶった割には大したことねえな)

あちこちから失望の声が洩れる。

だが,ゾベック先生は,「このような芸は大したことではないと思っているね?だが,これは鍛練を極めた者だけに可能な,高度な妙技なのだ。嘘だと思うならやってみるがいい」と言い,その間も微動だにしないまま。

試しにやってみる生徒たちと見物人たちだったが,皆一様によろけて,しっかりと立てないのだった。

その中でなぜかクレオだけが,目を閉じてしっかりと片足立ち出来ている。

あの不思議なシーンには何かの意味があったのだろうか…と,気になったが,実は3回観ても解らなかった。

練習が終わったフェルミンに声をかけるクレオ。

「ラモン…あのデブ…」と呪詛の言葉を口にし,無視こそしなかったが,あからさまにうっとぅしそうな様子。

「私,妊娠してるの。あなたの子よ」

直球なクレオだが,「だからフェルミンにどうして欲しいのか」は言わない。

予想通り,いや,予想以上にフェルミンの取った態度はひどいものだった。

認知しないばかりか,棒を構え突きつけて嚇しながら,たかが家政婦ふぜいが,もう自分の目の前に現れるなよ…とまで言ってのけ,仲間たちと車に乗って去ってしまうのである。

かえって気持に区切りをつけられてよかったのではないかと,私なんかは思うのだが,まだ若く,おそらくフェルミンが最初の相手であったのだろうクレオが可哀想でならなかった。

家ではソフィアが友達にヒステリックに電話で愚痴っていた。

ソフィアはアントニオが浮気をしていることを知っていたらしい。

「あいつ,カナダになんていもしないクセに,『景色がきれいだ』とか何とか,嘘の手紙を書いて来たのよ…!!」

部屋の中から聞こえる母の声のただならぬ響きに,心配顔でドアの外で聞き耳を立てるトニオだったが,ショックを受けて固まっているところに出てきたソフィアに,「盗み聞きするなんて,何て子なの!!」とぶたれてしまう。

駆け寄って助け起こすクレオ。

すぐに後悔して謝るソフィアだったが,「他の子たちには絶対に(父の浮気を)喋っちゃダメよ」と言い聞かせる。

そんな訳で長男トニオのストレスが溜まり,そのせいで兄弟の間もぎくしゃくし始める。

トニオとパコが一歩間違ったら命を落とすのではないかというほどの喧嘩をするシーンがあった。

トニオが咄嗟によけたから当たらなかったのだが,ささいな原因で取っ組み合いをした後,パコが重い灰皿を投げつけたのだ。

開き直って恋人と住み始めたアントニオが家にお金を入れないことを嘆くソフィアだったが,彼女をなだめ,「しっかりしなくちゃダメよ」と慰めるおばあちゃんもつらそうだ。

夜,外出から帰ったソフィアがケラケラ笑いながらクレオの頬を撫で,「私たち女はいつも孤独…!!」と自嘲的に囁くシーンは胸が痛んだ。

ゲスい男に苦労させられるという共通点を持つクレオとソフィアは,身を寄せ合い力を合わせて生きてゆくしかないようであった。

(続く)
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